大気中でのマイクロビームを用いたPIXE分析を行うのに必要な装置の開発、整備を行った。加速器からのイオンビームを大気中に取り出すには、ビームが通過する膜が必要である。多重散乱によるビーム広がりを抑えるために膜の厚さはできるだけ薄いことが望まれるが、薄くなるにつれて真空保持は困難になる。従来はPET、カプトン等の高分子薄膜が用いられてきたが、強度の点を考慮すると真空保持のために厚さが1μm以上の膜を用いなければならなかった。私はこのビーム通過窓に使用可能な薄膜を検討し、強度に優れ厚さが数百nmの薄膜が入手可能な窒化シリコン膜を用いることにした。多重散乱によるビーム広がりを計算し、厚さ100nmの窒化シリコン膜を用いることによって10μm以下の径のビームを得られるという結果を得た。また、この薄膜を実際にビームラインに取り付けてテストを行い、真空保持に十分な強度があることを確認した。次に、高感度で測定を行うために必要となる大立体角検出器の導入を行った。マイクロビームのような強度が弱いビームを用いた分析では測定感度を上げるために大立体角の検出器が不可欠である。そこで大面積X線検出器を導入し、さらに試料と検出器の距離が短くなるように調整した。これによってこれまで設置されていた検出器に比べて立体角を100倍程度増大させた。チェッキングソースを用いたテストを行い測定器、回路系の最適化を行った。また、実際にマイクロビームを用いた測定を行いこれまでと比べて測定効率が大幅に改善されたことを確認した。
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