ポリエチレングリコール(PEG)の劣化促進試験を行い、その間に分解生成物として発生すると考えられる気体を採取した。試験に使用したPEG#4000の分子量は2700〜3400である(平均分子量3050)。前年度までに二酸化炭素・酢酸の発生が確認されたが、予測していたギ酸は検出することができなかった。また、発生物質の同定が不十分であると判断したため、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)を使用した。100℃における劣化促進試験で発生した気体の分析結果では、当初考えられていた酢酸やギ酸よりも分子量が大きな物質が数種検出された。分子イオンピークの安定性が低い物質が発生していることを考慮し、フラグメントイオンピークのパターンからNISTライブラリーデータベースと比較して分子量と構造を検討した。検出された物質の質量は90、151、142、184であった。最も信頼性が高いそれぞれの組成式は、質量90の物質がC_4H_<10>O_2、質量151の物質は不明、質量142の物質がC_9H_<18>O、質量184の物質がC<12>H<24>Oであった。 本研究において、当初に予測していたPEGの分解生成物としてのギ酸はほとんど発生していないか、微量であると判断できる。また、分解反応によって数種の物質が気体として発生することは確実であり、それに伴いPEGの分子量分布は低分子側にシフトしていくものである。 本研究は出土木製品の保存処理という、特殊な使用状況(木材への含浸・長期的な加熱等)における材質変化に関する研究の一端をなすものであり、今後もその詳細を検討し続ける予定である。使用薬剤の、使用環境に対する性質を明らかにし、安定性の高い保存処理の一助としたい。
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