海水から溶存気体を抽出し、希ガスを精製・分離し、スパイクを含んだ希ガス同位体比を数%の精度で測定できる分析システムを構築した。そしてこの装置の分析精度を、大気標準試料と標準海水試料を用いて評価した。標準海水試料は、恒温室において大気と溶解平衡にした標準海水を特注のなまし銅管に導入し高真空に耐える鋼鉄製のクランプで封入して作成した。この銅管を含む保管器具類は実際の海水試料の採取・保管に使うものを使用し、分析システムだけでなく保管器具類の性能も評価した。その結果、海水が約8cm^3あれば、溶存している希ガスの濃度を1%(1σ)の精度で測定できることがわかった。 次に、この分析システムを用いて、東京大学海洋研究所の海洋調査船の研究航海で採取した海水を分析した。採水方法は、CTD装置を備えたロゼッタ採水器により、一つの地点において深さ方向に異なる深層海水試料を採取し、大気の汚染を防いでなまし銅管に導入してクランプで封入してある。採水と同時にCTD装置により、深層海水の塩分濃度、温度、水圧を測定してあり、希ガスの存在度を議論する上で重要なデータとなる。今回構築した分析システムにより、深層海水試料中のヘリウムからキセノンまでのすべての希ガス濃度を分析した。その結果、どの希ガスも、採取した深さの温度と塩分濃度から計算される飽和濃度に近い濃度であったが、表層における気泡の取り込みや、表層水と中深層水の混合によるものと考えられるわずかな過飽和が見られた。また深層では別の要因によるものと思われる不飽和や過飽和が見られ、希ガスが水塊の起源や流動に関して何らかの情報を持っていることが示唆された。
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