研究概要 |
水銀雨の実態調査のための水銀沈着量の計測において,より広範な地域で調査を容易に行うことができる水銀計測システムの構築に向け,以下の3点について検討を行った。 1.降水中水銀の固定化:500mLの試料水に硫化物イオンを0.1mg,亜鉛イオンを20mg添加し,1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液2mLをゆっくりと滴下して溶液のpHを約11とすることで,試料水中の水銀を生成する沈殿に定量的に固定化できた。この溶液の上澄み液約480mLをデカンテーシヨンにより除去した後,沈殿を含む溶液を室温にて放置したところ,少なくとも約1ヶ月間は水銀の溶出は認められなかった。従って,降水中水銀を採水場所にて沈殿に固定化することにより,水銀を損失することなく長期間保存することが可能となった。 2.試料採取法:降水採取の際,溶存する水銀は経時的に損失したが,次亜塩素酸ナトリウム溶液あるいは次亜塩素酸カルシウム粉末を採取容器にあらかじめ添加することにより,少なくとも5日間までは損失を抑制することが可能であった。なお,採取容器として,汎用のポリエチレン容器を用いることが可能であった。 3.水銀の定量操作:水銀を固定化している沈殿を含む溶液の上澄み液をデカンテーションし,濃塩酸1mLを添加して沈殿を溶解して約25mLの溶液とする。この溶液に5%w/v過マンガン酸カリウム水溶液を20μL添加した後,還元気化-原子吸光法にて水銀を,フレーム原子吸光法にて亜鉛を測定し,亜鉛を内部標準元素とみなして水銀の吸光度と亜鉛の吸光度の比を用いて作成した水銀の検量線により試料水中の水銀量を求める。本法の操作は極めて簡便・迅速であり,検出限界は試料水中水銀濃度として0.28ng/Lであった。
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