研究課題
本研究の目的は、河川・海洋における物質循環の解析ツールとして、地表に普遍的に存在する様々な微量金属元素を利用した"微量金属元素同位体トレーサ法"を確立することである。昨年度までは陸域(河川)を対象とし、土壌などの地表物質の分布の規定要因、移動・拡散など、環境評価指標としてのストロンチウムやネオジム、ハフニウム同位体(^<87>Sr/^<86>Sr比、^<143>Nd/^<144>Nd比、^<176>Hf/^<177>Hf比)の有用性の確認を行なった(Asahara et al., 2006)。これら陸源物質は溶存態、粒子態として海洋に流入し、最終的に海洋堆積物として沈積する。本年度(3年目)は、この海洋堆積物から、海水を起源とする物質と陸源砕屑物を分離し、各成分のSr、Nd同位体が持つ起源情報について検討を行なった。試料には、みらい航海MR03-K04で採取した南インド洋高緯度海域の珪質・石灰質堆積物を使用した。逐次溶解法により「炭酸塩」、「鉄マンガン酸化物」、「生物源シリカ」、「有機物」、「砕屑物」の5つの成分を分離し、これら各成分のSr、Nd同位体比を測定した。その結果、微量金属元素同位体トレーサが、以下の過去の地球表層環境の復元に有効であることが示された。(1)炭酸塩、鉄マンガン酸化物、生物源シリカの各成分は基本的に海水の同位体比を反映したが、炭酸塩成分と鉄マンガン酸化物成分のNd同位体比には水深毎のNd同位体比の違いに起因する差も見られた。過去の海水のNd同位体比の深度プロファイルの復元の可能性を示唆するものであり、過去の海洋循環の解明に寄与すると考えられる。(2)砕屑物成分の同位体分析から、砕屑物が南極半島付近から漂流岩屑として運搬されてきた可能性が示された。砕屑物の同位体分析は、陸源物質の運搬過程に関わる過去の地球表層の風系・表層海流系を復元する際の強力なツールとなることが期待される。
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