これまでの海洋で用いられてきた化学センサの原理としては、1)特定の化学物質に感応する電気化学的デバイスをそのまま用いるもの、2)選択的に化学物質を透過させる膜を電極と組み合わせた物、3)発色反応・蛍光反応をおこさせ光ファイバーを用いて分光分析を行うものなどがある。今回は長期連続観測の必要があること、海水のなかでも冷湧水域や内湾など妨害金属元素等が多量に含まれている海域をターゲットとしていることなどから、2)の膜による透過を用いる方法では妨害物質による選択能の低下が懸念され、3)の分光分析においては検出器セルの汚れによる感度低下が避けられない。したがって、本研究では、汚染などにより強いと考えられる1)の電気化学的デバイス(電極)を用いる方法で開発を進める。電気化学的デバイスとして、従来の陸上による分析化学的手法を概観すると、1)水銀アマルガム化した金などを用いた(Au/Hg)のような固体電極を用いる方法、2)電極として水銀滴下電極を用いる方法、3)グラッシーカーボンを用いた濃縮電極を用いる方法などが考えられる。2)の水銀滴下電極は反応性に富み電気化学的にも扱いやすことから有効であるが、実海域での使用において電極自体が汚染物質となりうること、3)のカーボン電極は反応性が低くマンガンなどの比較的容易に酸化されうる元素に対象元素が限られてくることなどといった欠点があったため、本研究では1)で述べた固体電極による手法を用いることがもっとも適していることが明らかとなり、今後のセンサ開発の目処がたった。
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