本研究では、主に2つの研究テーマに取り組んだ。一つは、廃棄物処理施設設置に伴う社会的費用の計測である(テーマ(1))。もう一つは、青森・岩手県境の産廃不法投棄現場における環境再生事業の評価である(テーマ(2))。テーマ(1)については、昨年度までに主な分析を終え、本年度はそれを学術論文として公刊した。ここでは特にテーマ(2)の研究実績について報告する。 テーマ(2)では、青森・岩手県境不法投棄現場の環境再生事業に関する項目として以下の4つ、(1)誰が事業主体となるか、(2)どのような内容の環境再生事業を行うか、(3)将来にわたって現場およびその周辺の環境水準をどのように保つか、(4)原状回復事業後の環境モニタリングをどれだけの期間行うか、に注目し、当該事業に対する住民意識を選択型実験によって分析した。 分析の結果、以下のことが明らかになった。事業主体については、県の単独主体よりも、地元市町村、NPO等を含む地元住民、有志企業がそれぞれ追加されるに従い人々の効用が逓増することがわかった。再生内容については、更地のままにする案や廃棄物処理施設や県境不法投棄事件についての環境学習施設を設置する案よりも現場全体を植林するという案が最も高い支持を得た。目標とする環境水準については、環境基準をすべて達成した場合も、それに加えて専門家が問題なしと判断した場合にも、平均的には環境基準のほぼ達成の場合と効用水準の違いは見られないことがわかった。原状回復事業後の環境モニタリング期間については、3年、5年、10年と期間が長くなるにつれて平均的には人々の効用が増加するが、その増分は減少することもわかった。さらに、これらの推定結果をもとに、当該事業に対する岩手県民全体の評価額も推計し、最高評価額は約127億円と推計された。
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