研究概要 |
本年度は,初年度の調査として,政府開発援助(ODA)の供与のあり方に関する議論の変遷をサーベイし,同時に,旧デンマーク環境開発協力局(DANCED)及びドイツ技術協力局(GTZ)がタイで行ってきた国際環境援助の概要と評価に関する資料収集と聞き取り調査を行った. この結果,まずDANCED・GTZとも産業公害防止のための支援を行っており,具体的には,クリーン生産技術の採用やエネルギー効率化を目的としたデモンストレーション事業と技術訓練を共通して行っていること,しかしデモンストレーション事業と技術訓練が,少なくともタイでは,政府が厳しい環境政策を実施していないために,必ずしも中小企業でのクリーン生産技術の採用やエネルギー効率化に効果的なインパクトを及ぼしているわけではないことが明らかとなった.またGTZでは,タイの地方分権化を見据えた地方自治体の環境行政能力の強化の支援も行ってきたが,これはタイからの個別の支援要請に基づくもので,必ずしも産業公害防止などの他の環境援助プロジェクトと有機的に連関していたわけではなかった.つまり,日本の援助機関と同様,受取国政府の環境政策へのコミットメントの弱さという「壁」に当たって,効果的な支援ができずにいることが明らかになった. しかし,DANCED・GTZともその壁を乗り越えようと努力していることも明らかになった.具体的には,GTZは,中央政府の各省庁が一致して環境政策を強化していくのを支援するように環境援助プログラムを再編成した.また旧DANCEDでは,タイのNGOを通じたコミュニティやNGO主導のコミュニティ森林法案の作成の支援に見られるような,コミュニティの発言力・実施能力の強化(エンパワーメント)を支援する等,社会全体としての環境管理能力の強化を目的とした支援を行うようになったことである.
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