研究概要 |
申請者はこれまでに、ヒト由来のHeLa細胞において甲状腺ホルモンレセプター(TR)遺伝子、およびレポーター遺伝子(luciferase)が発現する細胞株を樹立している。この細胞は甲状腺ホルモンの暴露に濃度依存的にルシフェラーゼ活性を示す。本年度は、この細胞株を用いて農薬・殺菌剤(31種類)、難燃剤およびその関連物質(11種類)、工業的に用いられている有機ハロゲン化合物(11種類)、合計53物質について甲状腺ホルモン撹乱作用を検討した。 アッセイを行った53物質の内、5物質についてT3の作用をかく乱する可能性が認められた。T3依存的なルシフェラーゼ活性の増加をさらに強めた化学物質は、農薬(除草剤)のNitrofen (NIP)、難燃剤のHexabromocyclododecane (HBCD)、光伝導体として使用されている4,4'-diiodobiphenyl (DIB)(図3)の合計三種類である。NIP、HBCDそしてDIBはT3共添加において、T3依存的なルシフェラーゼ活性を濃度依存的に増加させるだけでなく、T3無添加においてもそれぞれ単独で濃度依存的にルシフェラーゼ活性を増加させた。T3依存的なルシフェラーゼ活性を抑制させた化学物質は、難燃剤のTetrabromobisphenol A (TBBPA)と、難燃剤関連物質の2,4-dibromophenol(DBP)の合計二種類である。TRを介する甲状腺ホルモンの撹乱作用に関しては、これまでにTBBPAの報告はある。しかし、NIP、HBCD、DIB、DBPがTRを介して甲状腺ホルモン撹乱作用を示すことを明らかにしたのは、本研究が最初の報告である。 現在、いくつかの候補遺伝子に的を絞って、これらの汚染物質がT3のシグナル伝達をどのようにかく乱するのか調査している。
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