研究概要 |
これまでに、T3暴露によって甲状腺ホルモンレセプター(TR)を介しルシフェラーゼ活性を示す細胞株を樹立している。この細胞株を用いて53物質の有機ハロゲン化合物のアッセイを行い、ニトロフェン(NIP)、ヘキサブロモシクロドデカン、4,4'-ジイオドビフェニル、テトラブロモビスフェノールA(TBBPA)、2,4-ジブロモフェノール、ビスフェノールA(BPA)が甲状腺ホルモン攪乱作用を有することを昨年度までに明らかにした。さらに、2,3,7,8-TCDDについても甲状腺ホルモンの作用を攪乱させる作用があることが明らかにされている。今年度、2,3,7,8-TCDDの他に5種類のダイオキシン類(1,2,3,7,8-PeCDD,1,2,3,4,7,8-,1,2,3,6,7,8-,1,2,3,7,8,9-HxCDD, OctaCDD)についても攪乱作用を調査した。その結果、これらのダイオキシン類の中でも甲状腺ホルモン様作用をする物質(PeCDDやOctaCDD)、抗甲状腺ホルモン様作用をする物質(HxCDDs)があることが明らかとなった。 これまで、甲状腺ホルモン攪乱作用を示す化合物の条件として、4位に水酸基があり隣接する3,5位にハロゲン置換しているハロゲン化フェノール骨格を有することが報告されている。我々もTBBPAで攪乱作用を認めている。しかし類似した構造のテトラブロモビスフェノールSには攪乱作用は認められなかった。逆に、ハロゲンが置換していないBPAや、フェノール骨格をもたないNIPで甲状腺ホルモンを攪乱する作用を示すことも明らかにしている。そこでコンピュータシミュレーションで立体構造を解析したところ、T3と同様に2つのベンゼン環の間にネジレがある物質が攪乱作用を示すことが明らかとなった。TRを介した甲状腺ホルモン攪乱作用を示す物質に、特徴的な立体構造があるという知見は今回が初めてである。
|