集水域のモニタリングをする上で、生物活性にリンクするもっとも基本的なパラメータは「光合成Photosynthesis」と「呼吸Respiration」である。その比(「P/R比」)は生物活性の総和の指標の一つと考えることができる。本研究は、自然生態系・人工生態系の合わさった集水域(河川から湖)における生物による生産・物質分解過程を、溶存酸素同位体比の厳密分析によって、微細に測定することを目指す。ここで用いる理論的基礎は、δ^<18>Oの質量依存的同位体効果、およびδ^<17>Oの質量非依存的同位体効果である。本年度は、昨年度製作した溶存酸素を抽出する真空ライン、及びモレキュラーシーブ5Aカラムを備えたガスクロマトグラフィーにより窒素分子と分離して酸素分子を測定する方法を用いて現場測定を行なった。平成16年12月からは、琵琶湖の鉛直プロファイルのサンプリングを始めており現在も継続中である。近江舞子沖定点の湖底直上(70m)での、みかけの酸素消費は4-8月にかけては約30mgO_2/L/day、8-12月にかけては約10mgO_2/L/dayとなった。インキュベーションによる酸素消費速度測定では、6-7月に低く8-10月に高い値を示した。一方、δ^<18>Oの値は循環期(冬季)には大気平衡よりやや低い値を示し、全層を通して光合成シグナルが残っていることを示した(P>R)。また、湖底直上では、成層期にはδ^<18>Oが平均して0.03‰/dayの上昇を示し、底層での酸素消費が連続的に起こる事を示した(P<R)。成層期末期には、水温躍層はより深い位置に形成された(1月14日時点で約40m)が、深層水のδ^<18>O値は濃縮を続け、底層でのδ^<18>O_<SMOW>値が30‰を下回る値を示した。
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