海草の生育には光が大きく影響していることが広く知られている。いっぽうで高等植物である海草類は海藻類と異なり根や地下茎を有する形態的特長をもつにも関わらず、地下器官や底質環境に注目した知見は少ない。本年も引き続き海草コアマモ藻場の底質酸化還元環境の特徴を、干潟で同所的に存在する海藻オゴノリ藻場と比較しつつ、地下器官の有無という特徴の差が及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。 (1)コアマモ藻場直下における有機物分布を強熱減量を用いて詳細に評価したところ、深度20cmまで1〜2%と一定で裸地と差が無かった。底質直下に大量に分布するコアマモ枯死体が直ちに分解されていることが示唆された。コアマモ藻場の土壌貫入抵抗とせん断力は、表層4cmで裸地に比べそれぞれ約5倍、約1.7倍高かった。直上水の溶存酸素濃度は80〜120%であったが上記のような底質環境では酸素が根圏に到達する前に消費されてしまうことが予想され、コアマモ藻場の底質Ehが裸地に比べ還元的な値を示したこととよく一致した。これらの結果からコアマモがその底質直下に硬化した還元的環境を自ら形成することを確認した。 (2)現場における浸透検知管法、亜鉛アンミン固定法+メチレンブルー定量法、埋設ビニールテープ法、の三法によって底質の硫化物環境の評価を行った。前二法から、硫化物、硫化水素ともに検出限界以下であることが明らかになった。一方、ビニールテープ法によって、海草が多く分布する底質表層0〜4cmにおいて積算的な硫化水素の効果が検出され、それ以深では逆に減少してゆくことを明らかにした。 (3)コアマモ藻場では底質表層の貫入抵抗はオゴノリ藻場の約10倍高く、せん断力は約2倍高かった。Ehをそれぞれの裸地と比較したところ、オゴノリ藻場では裸地に比べわずかに(74±45mv)高かったが、コアマモ藻場では逆に裸地に比べて有意に(139±12mv)低かった。底質の有機物量は両者に差が無かった。硫化水素量はコアマモ藻場ではオゴノリ藻場の約40%程度に抑えられていた。コアマモ藻場は同じ干潟に優占するオゴノリ藻場に比べ、根圏が発達し底質が硬化してEhも低いにもかかわらず硫化水素の発生は抑えられている、という特徴をもつことを明らかにした。
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