研究課題
放射線エネルギーがDNAに直接付与された場合に生じるDNA損傷(直接効果)の特徴について調べた。この2年間の研究で、直接効果によるDNA損傷の特徴について以下の2つの重要な結果を得ている。(1)軟X線(538eV)あるいは60Coγ線(平均1.25MeV)を照射したpUC19プラスミドDNAの高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析を行った結果、塩基脱離が生じることを確認した。また単位吸収エネルギーあたりの脱塩基量は軟X線のほうが約3倍多かった。(2)照射DNAを3'→5'exonuclease活性を有する蛇毒phosphodiesterase(svPD)及び子ウシ腸alkalinephosphatase(ciPhos:末端リン酸基を加水分解し、3'あるいは5'水酸基とする)で処理することによって得られた未損傷2'一deoxynucleosideの生成量(生成速度)を両線源で比較した結果、軟X線の方が約3倍多かった。この結果は、単位吸収エネルギーあたりの鎖切断(svPDによって直接、あるいはciPhosによってsvPD消化可能となる末端)数が、γ線よりも軟x照射の方が多いことを示唆している。以上の2つの結果から、軟X線照射で生じる500eV程度以下の低エネルギー2次電子とγ線照射で生じる1MeV程度以下の高エネルギー2次電子では、DNA上の放射線化学変化の収率(単位吸収エネルギーあたりの化学変化量)が明らかに違うといえる。本研究では、これまで塩基脱離あるいは鎖切断というマクロな現象を取り扱ってきた。したがって、塩基が脱離した後の糖残基の化学構造や鎖切断末端構造の種類・量と、付与される放射線エネルギーとの関係は不明である。今後の研究の中でこれらの関係を明らかにしていく予定である。
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International Journal of Radiation Biology Vol. 80, No. 11-12
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