化学工業の発展により、多種多様の化合物が生産されて人間の生活が豊かになった反面、環境ホルモン問題や化学物質過敏症に代表されるように、環境中に希薄に存在する汚染物質が大きな社会問題となっている。とりわけ環境ホルモン問題は、世代を越えて有害性を示すことから、安全性の基準策定が難しく、このことは同問題をより深刻化させている。そこで本研究では、水環境中に含まれる環境ホルモン物質(EDC)を効率的に分解・除去することを目的として、[60]フラーレンの光増感能に着目した環境修復材料を開発することを計画した。交付の初年度となる平成15年度においては、まず、光増感剤となる[60]フラーレン誘導体1を文献記載の方法に従って合成し、次いで汚染物質モデルとして内分泌攪乱作用の疑いがもたれている3種類のEDCを用いて、光分解実験を行った。すなわち、EDCの水溶液に10mol%量の1を添加した後、ハロゲンランプを用いて光照射し、一定時間毎に試料溶液を採取して、溶液中に含まれる未反応のEDCの濃度ならびにその経時変化を高速液体クロマトグラフィーにより追跡した。なお、比較のため、ローズベンガル(RB)ならびにメチレンブルー(MB)を用いた光分解実験も併せて行った。1、RB、およびMBを用いた何れの場合においても、EDC濃度は照射時間とともに徐々に減少したものの、1を用いた場合には、EDCの分解が他の二つの光増感剤に比べて速やかに進行することが分かった。RBおよびMBにおける項間交差の量子収量がそれぞれ0.6、0.2である一方、C_<60>ではほぼ1に近いことから、観測されたEDCの分解挙動の差異は、溶存酸素へのエネルギー移動を含め、用いた光増感剤の光化学的特性に起因しているものと考えられる。次年度においては、分解生成物の同定を進め、光分解のメカニズムについて考察を行う予定である。
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