大きさが1nmクラスの金属クラスターが外部電極と弱く結ばれた系(両者が量子抵抗より充分大きな抵抗を持つトンネルバリアで結合している系)において、その化学ポテンシャルが外部環境でどのような変化をするか、またその結果電極のフェルミレベルとの相対的な位置関係はどのようになるかを知ることを目的としてシステマティックな研究を行なっている。平成15年度はヂチオール分子膜/Au(111)基板上に成長した金クラスターを対象として、その化学ポテンシャルの基板のフェルミレベルに対する相対位置関係を、走査トンネル顕微鏡を用いたトンネル分光により詳細に調べた。 用いた試料は、(1)外部電極として働く原子レベルで平坦なAu(111)面、(2)相互作用(トンネル確率等)の大きさをコントロールできる厚さの制御可能なヂチオール分子膜、(3)蒸着量により大きさの制御可能な1nm級金クラスターからなる。トンネル分光ではクラスターを中心電極とした2重トンネル障壁が形成されることから、単一電子トンネル効果によるクーロン階段が見られる。この階段の対称性からクラスターの化学ポテンシャルの基板のフェルミレベルに対する相対位置に関する情報を得ることができる。その相対位置は個々のクラスターにによって異なるため、多くのクラスターについて測定しその分布を調査した。また分布のクラスターサイズ依存性も詳細に調べた。その結果、金のクラスターの一電子帯電エネルギーがサイズ減少とともに単調に増加する事、金のクラスターの化学ポテンシャルは基板のフェルミレベルを中心に分布している事、その分布の幅がクラスターのサイズ減少とともに大きくなる事、分布の幅のサイズ依存性と一電子帯電エネルギーのサイズ依存性の関係からナノクラスターの電気的中性がサイズ増加ともに破れていく様子がみられた。得られた結果は国内学会講演会(4件)、国際会議(4件)、論文(2誌)等で発表を行なった。
|