直径が1nm程度の金属クラスターが外部電極と弱く結ばれた系(両者が量子抵抗より充分大きな抵抗を持つトンネルバリアで結合している系)において、その化学ポテンシャルが外部環境でどのような変化をするか、またその結果電極のフェルミレベルとの相対的な位置関係はどのようになるかを知ることを目的としてシステマティックな研究を行なっている。平成16年度は平成15年度にひきつづきヂチオール分子膜/Au(111)基板上に成長した金クラスターを対象として、その化学ポテンシャルの基板のフェルミレベルに対する相対位置関係を、走査トンネル顕微鏡を用いたトンネル分光により詳細に調べた。 15年度は単一電子帯電効果を起源とした化学ポテンシャルのみを議論してきたが、実際には1nmクラスのクラスターの場合、量子的な効果(いわゆる量子ドットとしての振る舞い)も無視できないはずである。これまでの我々の試料の場合、クラスターが密に配置しているため、クラスター間の相互作用が測定に影響を及ぼしている可能性があった。今年度はその影響を排除するための試料の作成を行ないポテンシャルを系統的に調べた。 15年度のトンネル分光測定は主に物質材料研究機構のナノマテリアル研究所藤田グループの協力を得て実験を行ったが、今年度は我々の研究室に極現場(高真空、高磁場、超低温)で観測可能な走査型トンネル顕微鏡が導入された。本年度の前半は我々の高精度な測定に必要な条件だしや装置の問題点の解決等に多くの時間を割いた。これにより系統的な研究をする準備はほぼ整った。 得られた結果は国際会議(3件)、論文(2誌)等で発表を行なった。
|