研究概要 |
PZT(PbZr_<1-x>Ti_xO_3)は現在最も広く実用化されている強誘電体デバイス材料である。Ti濃度x=0.48付近に相境界を有し,相境界付近の組成で異常に大きい圧電性を示すために応用上の価値が高い。本年度は、PZTのバルク結晶の常誘電相での電子密度分布及びPb原子の挙動のZr/Ti組成依存性を調べた。以前の研究で,x=0(PbZrO_3)とx=1(PbTiO_3)の常誘電相におけるPb原子の挙動を比較すると,PbTiO_3ではPbが+2価のイオンとして静的に孤立しているのに対し、PbZrO_3では最近接の酸素原子と共有結合を形成していてしかも複数のサイトを占有する無秩序状態にあることが分かっている。本年度は新たにTi濃度xが0.25,0.48,0.75のPZT粉末試料を合成し、大型放射光施設SPring-8のビームラインBL02B2で放射光粉末回折実験を行なった。測定データをリートベルト解析した結果,x=0.25,0.48ではPbが無秩序状態にあり、x=0.75ではPbが秩序状態にあることが分かった。この結果から,相境界を境にTi高濃度側でPbが秩序化しているのではないかと推測している。相境界での大きな圧電性とPb原子の秩序化との関連に興味が持たれる。電子密度分布については、試料中に混在した不純物が問題となって、現在解析が難航している。来年度は、より高純度の試料の合成と、より細かいZr/Ti組成依存性の調査が必要である。 PZT以外に本年度は,SAWフィルターや圧電、焦電デバイス材料であるLiTaO_3の電子密度分布解析、最も代表的なペロブスカイト型強誘電体であるBaTiO_3の電子密度分布の粒径依存性の調査も行った。
|