本研究は、自己組織化により形成されたナノワイヤを用いたデバイスの研究開発を目標とした。本年度は、超高真空中でシリコン(Si)基板上にエルビウム(Er)を蒸着させ、その表面構造変化を超高真空走査トンネル顕微鏡(STM)によって観察した。最初にEr蒸着条件を決めるため、電子ビーム蒸着源のエミッション電流設定によって、Erイオン電流を1〜50nAの範囲で制御できる条件を調べた。さらに、蒸着速度と蒸着量の安定性を調べて、イオン電流を10〜20nA、蒸着時間を10〜60秒に決めた。この時の蒸着量は、イオン電流から計算すると約0.001〜0.01ML(MLは原子層)であり、蒸着時の真空度約2×10^<-9>Torrからは、約0.1L(1L=1.0×10^<-6>Torr・s)と見積もることができる。実験では、Er蒸着前にSi基板表面状態をSTMによって観察し、Siの清浄表面のSi(111)7x7およびSi(001)2x1構造を確認した。Si(111)上へのEr蒸着後には、Erが島状に付着している状態が観察でき、その島のサイズは高さ約5nm、幅約10nmであった。これを600℃で5分間アニールしたところ、島の幅が約5nmに減少し、島の密度が増加することがわかった。Si(001)の場合、Er蒸着後には、Si(111)の時と同様に島状のErが観察でき、これを600℃で5分間アニールしたところ、島状のErが減少して原子の配列(ナノワイヤ)が観察できた。なお、Si(001)表面を平坦化するには、表面清浄化時の電流通電方向を表面に存在するステップの下り方向に合わせることが重要であることがわかった。今後、原子配列構造や電子状態を計測し、デバイス応用を研究する予定である。
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