近年、ナノ構造化による特異な水素吸蔵特性が見出されている。水素雰囲気中でのミリングによりナノ構造化させたバナジウム-水素系は、通常のバルク試料と異なった水素吸蔵特性を示すことが最近の研究で明らかになっている。一方、グラファイトを水素雰囲気中でミリングすることにより、ナノ構造化したグラファイトに水素が吸蔵される。これまでの回折実験の結果から、炭素原子と直接結合した水素の他に、グラファイト層間に水素原子が存在することが示唆されている。このようなナノ構造水素吸蔵合金の水素原子位置及びその周囲の状況を詳細に解明し、新しい水素吸蔵合金を創生することは、早急に着手しなくてはならない重要なテーマである。本研究では、バナジウム-水素系とグラファイト-水素系の2つの系について、パルス中性子回折実験及び高エネルギーX線回折実験により、水素原子の存在位置及びその周囲の環境を明らかにすることを目的とする。ナノバナジウム-水素とナノグラファイト-水素は、1MPaの高圧水素ガス雰囲気下におけるメカニカルミリングにより作製された。これらのサンプルは吸湿性を有するため、オンライン型露点計により容器内の湿度を注意深く看視した。中性子回折による実験結果から、ナノ構造化によりバナジウム-水素系の8面体サイトの形成は抑制され、水素原子は4面体サイトに存在することが明らかになった。一方、ナノグラファイト水素系については、中性子回折実験により得られた動径分布関数においてC-C単結合に相当するピークが観測された。更に、中性子非弾性散乱スペクトルにsp^3炭素のC-H変角振動に対応するピークが観測されたことから、通常のsp^2混成炭素の他にsp^3混成炭素が存在していることが明らかになった。
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