本研究では、閉鎖循環型マイクロチャネルに有機溶媒を入れ、それに接するマイクロチャネルに水溶液を流して、微小な抽出操作を行なう。水相の流れによって有機相内に誘起される流れを観察・利用することも行なう。この際、水相の流れによる圧力に抗して、循環型チャネル内の有機相が押し出されることのないようにする工夫が必要となる。この問題に対し、前年度までに、浅い循環型チャネルと、それに接する深い水相用チャネルからなる構造を作製し、キャピラリーカを利用して浅い循環チャネル部分のみに疎水性表面処理試薬を導入する方法で、循環型チャネル内に有機相を安定して留める事に成功している。 本年度は、この深浅2段階からなる構造を利用し、実際に抽出操作を行なった。循環チャネル部分をトルエンで満たし、それに接するチャネルにメチルレッド水溶液を流す。熱レンズ顕微鏡を用いてチャネル内のメチルレッド濃度をモニタした。水相の流れを純水からメチルレッド溶液に切替えると、有機相内のメチルレッド濃度は上昇し、20分程度で平衡に達した。メチルレッド溶液から純水へと戻すと、有機相内のメチルレッド濃度は減少し、5分程度で元の状態まで戻った。この結果から、閉鎖循環型マイクロチャネル構造を利用した濃縮抽出が可能であることが示され、今後、水中の有害有機物濃度モニタリングなどに応用できるものと期待される。 循環型チャネル内の有機相の流れを可視化する上で、蛍光色素を含有した微粒子を分散させる方法は、色素が有機相へ溶け出すため用いられない。そこで、循環チャネル部分にDMSOを満たして凍結させ、深いチャネル部分のみに疏水化試薬を流すことで循環チャネル部分のみ親水性表面とし、循環チャネル内の水相の流れを、蛍光微粒子を分散させて顕微鏡観察することに成功した。油水界面近くで特に速い流れがあり、チャネル内側にも渦のような流れが誘起されている事が分った。
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