研究概要 |
上記研究目的を達成するため,本年度に取り組んだ研究は,取引費用を考慮した最適な自己株式取得政策や投資プロジェクトの評価である. 自己株式取得政策の分析においては,インパルス制御理論を応用し,自己株式取得の実施時刻と取得額を求めた.分析においては,自己株式取得額の期待総割引現在価値を最大とする企業の問題を考えた.また,デフォルト現象などを考慮し,自己株式取得の原資となるキャッシュリザーブの水準が,離散的に変動する場合を分析した.さらに,配当政策と自己株式取得政策の2つの政策を同時に考慮し,配当額と自己株式取得額の期待総割引現在価値を最大とする企業の問題も分析した.これら2つの政策を同時に分析するため,配当政策を絶対連続制御問題,自己株式取得政策をインパルス制御問題として定式化し,企業の問題を解いた.分析の結果,企業の最適な配当率と,自己株式取得時刻とその額を求めた.以上の配当・自己株式取得政策の分析と平行し,非線形の制御費用の分析の第一歩として,インパルス制御理論において,主体の毎時発生する費用と制御費用がともに2次形式で表される費用最小化問題を考察した. 一方,投資プロジェクトの評価に対しては,近年,日本においても企業の投資戦略の一つとして注目されるM&Aについて考察を行った.M&Aとは,買収企業および被買収企業の双方の株主にとって価値ある取引であり,その源泉は成長機会であるとの仮定に基づき,M&A発表日直前の買収企業と被買収企業の株式時価総額から統合後の株式時価総額を推定し,リアルオプション・アプローチを用いて,日本企業のM&Aにおける実証研究を行い,合併発表日直前の成長オプションの経済的価値を求めた.
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