本年度は、研究計画調書の研究計画・方法にある[A][C]及びその延長線上にある研究を行った。以下に、研究テーマ(論文タイトル)に沿って述べる。 [1]レジームを考慮した資産価格付けモデルによるJ-REITのリスクプレミアム推定 本研究では、複数のレジームが存在する市場における、最適成長ポートフォリオによる資産価格付けモデルを導出し、この理論に基づいてJ-REITのリスクプレミアムを推定した。レジーム・スイッチング・モデルを用いた資産の価格付けモデルでは、資産価格が従う「観測方程式」と、レジームが1次のMarkov過程に従うと仮定した「状態方程式」の2本の方程式を記述し、EMアルゴリズムを用いてパラメータを推定した。この推定結果では、「配当」「市場環境の変化」「通常期」と考えられるレジームが検出され、これらの市場状態に応じたリスク・リターン関係が見出された。 [2]確率的割引ファクターを用いた不動産価格評価モデル 本研究では、不動産価格の評価モデルを確率的割引ファクター(Stochastic Discount Factor)を用いて構築した。また、その有効性を日本市場を対象にして実証した。確率的割引ファクターを用いることにより、収益還元法において問題とされてきた割引率の恣意的な設定を回避でき、また経済学的な解釈に優れ、かつ閉じた評価公式として表現されるため、シミュレーションを行う必要もない。そして、日本の賃貸マンション市場と賃貸オフィス市場に対する実証分析により、投資家のリスク回避度が高まってきている傾向が示された。なお本研究は、既述した[1]の研究を行って不動産市場の研究に興味を持ったため、その延長線上の研究として行った。 [3]EMアルゴリズムの改良 通常の計量経済学においては、Hamilton流の原始的なEMが用いられている。一方、音声認識などの工学においてはEMにおいてスケーリングを行うことが多い。本研究においては、レジーム・スイッチング・モデルに関する実証研究を行うために、上記2通りのEMアルゴリズムを実装し、収束性・頑健性を分析した。その結果、初期値を乱数で与えて、スケーリングを用いたEMアルゴリズムを用いるものが最良であることが判明した。来年度も引き続き・アルゴリズムの観点から、レジームスイッチング・モデルの更なる研究を行う予定である。 また、上記3つの研究は、「研究調書の研究計画・方法」にて「II.研究を遂行する上での工夫」に述べたように、研究代表者が指導する大学院生、谷山智彦君や高野江里子さんなどと行った研究である。
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