研究概要 |
本年度は2通りのモデルによる理論研究を行うと同時に,アンケート調査により収集したデータを用いた実証研究を行った. 理論研究では,自然災害リスクに関する情報が提供されているにもかかわらず家計が合理的判断によってリスクを認知しない側面に焦点を当てた.近年,洪水ハザードマップ等を通じた災害危険度情報の公開が進んでいるが,住民は必ずしも危険度情報に対応した居住地選択や耐震補強,保険購入を行っていない.個人は,多くの住民が氾濫河川流域に居住すれば政府が堤防整備を行わざる得なくなることを合理的に予測して危険地域に立地する.結果的に社会全体に無駄な堤防整備支出が生じる.理論モデル1では個人の災害リスクの不認知が,土地市場の均衡を通じて,リスクを認知して安全な地域に居住する家計,防災投資支出を行う政府や社会全体の厚生に与える影響について分析した.一方,理論モデル2では一部の家計がリスク情報の学習を回避して災害保険を購入しないことが保険市場に与える影響について分析した. 実証研究では,現実の市場の地震保険の普及率が低く,また地域間で加入率に差がある点に着目した.実証研究ではその原因として過去の被災体験に着目し,被災体験の差と地震リスク認知,保険行動の差の関係について分析した.はじめに被災履歴の異なる2つの地域(鳥取市,米子市)を対象としてアンケート調査を行い,回答結果に数量化理論I類を適用して,直接的な被災体験や間接的な災害学習等が地震リスク認知のレベルに与える影響について分析した.また,家計の地震保険購入行動と家屋の耐震補強行動を同時に考慮した離散選択モデルを定式化して,回答結果よりそれぞれのリスク管理行動に付随する心理的費用について推計した.その結果,2000年に被災している米子市において,「もう地震はしばらくこないだろう」というリスク認知に基づいたリスク管理行動が系統的に確認された.
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