アプリロニンAは海洋動物アメフラシから単離された抗腫瘍性物質である。従来の抗腫瘍性物質とは異なり、細胞骨格タンパク質のアクチンの重合・脱重合に関与することは分かっているが、抗腫瘍活性発現の分子機構は現在のところ不明である。そこで、アクチンとアプリロニンAの結合を化学的に明らかにすることを目的として、以下の研究を行った。これまでの研究でアプリロニンAの側鎖が活性に重要であることが分かっているので、側鎖構造を有する人工類縁物質を数種類合成した。ついで蛍光ラベル化したアクチンを用いてアクチン脱重合活性を評価したところ、いずれもアプリロニンAの5〜10分の1程度の活性を示した。この活性はアプリロニンAに比べて弱いものの、光親和性標識実験においては十分な結合能を有することが分かった。この知見に基づき、これら類縁物質の水酸基に光反応基と検出のための蛍光基(ピレニル基)を導入したプローブ分子を合成し、アクチンとの結合実験を現在進めている。光反応基についても検討した結果、光照射によりカルベン型の反応活性種を生成するトリフルオロメチルジアジリジン基を採用することとした。また、上記の研究と並行して、アプリロニンA-アクチン複合体について結晶化とX線回折による構造解析も進めている。 また、アプリロニンA以外のアクチンに作用する有機小分子を探索する目的で、研究材料の海洋動物(カイメン、軟体動物など)を伊豆半島、房総半島、三重県志摩半島の海岸で採集した。今後、抽出物のアクチンに対する活性を検討する。
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