研究概要 |
(1)アブシジン酸(ABA)代謝抵抗性アナログのひとつである5'α,8'-cyclo-ABAの合成ルートを改良し、全収率を0.02%から1.4%まで向上させた。 (2)ダイコン幼苗を用いたABA代謝実験系を確立した。水耕栽培した1週齢のダイコンにABA水溶液を蒸散流を利用して取り込ませ、3日間培養後、破砕・抽出・精製・分析したところ、末代謝ABA(25%)、ファゼイン酸(50%)、ジヒドロファゼイン酸(16%)、ABAの1位配糖体(9%)が得られ、回収率ほぼ100%であった。この結果から、この系におけるABA主要代謝経路は8'位水酸化であることがわかった。 (3)(2)のABA代謝実験系を用いて、5'α-cyclo-ABAが8'位水酸化抵抗性アナログであることを証明した。ABAの場合に66%を占めていた8'位の水酸化による代謝物を検出することが出来なかった。1位配糖体は14%、末代謝の5'α,8'-cyclo-ABAは86%で、回収率はほぼ100%であった。したがって、5'α,8'-cyclo-ABAの8'位水酸化は全く起こっていない可能性が高い。 (4)5'α,8-cyclo-ABAが8'位水酸化抵抗性アナログである理由として、(1)ABA 8'水酸化酵素に結合できない、(2)ABA水酸化酵素に結合できるが水酸化作用を受けない、の2点が考えられた。分子軌道計算やNMRなどから、両者の立体構造はほぼ同じであると考えられるので、(1)の可能性は低い。ABA 8'水酸化酵素はP450であり、その酸化過程はラジカル的に進行する。ABAの8'位メチル基のC-H結合解離エネルギーと5'α,8'-cyclo-ABAの8'位メチレン基のそれとを高精度の分子軌道計算で比較したところ、約7 kcal/molだけ後者の方が大きいことがわかった。この結果は(2)の可能性が高いことを示唆している。
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