研究概要 |
キノコ由来の生物活性物質はこれまでに様々な研究が行われ、生命科学分野で重要な試薬、化学療法剤など、高い有用性が知られているものもある。しかし、キノコ類には未同定の種や、生理活性が十分明らかにされていない種が多く存在し、食中毒など多くの問題が残されている。本研究では、白色脂肪細胞に対する脂肪蓄積阻害活性試験など、各種生物活性試験を指標にキノコ類由来の有用生物活性物質を単離し、それらの機能を解明することを目指した。 約30種のキノコ類の含水エタノール抽出物を水/酢酸エチルで分配し、上述の脂肪蓄積阻害活性、および抗菌活性、マウス急性毒性など数種の活性試験によるスクリーニングを行った。その結果、サルノコシカケ科の一種、カワラタケの脂溶性画分に、強力な脂肪蓄積阻害活性が確認された。本試験法を指標に各種カラムクロマトグラフィーによる分離を行い、環状ヘプタペプチドであるテルナチンを単離した。テルナチンは極めて低濃度で脂肪蓄積を阻害し,一方で細胞毒性は低かったことから、新規脂肪細胞分化阻害剤として期待される。各種二次元NMRスペクトル、および酸加水分解反応物の解析により、構成アミノ酸を決定した。今回単離したテルナチンと平面構造が同じ化合物が過去に報告されているが、比旋光度が正負逆であり、両者は構成アミノ酸の立体化学が異なっていると考えられる。現在、詳細な立体化学の解析および化学合成を行っており,本活性以外の種々の生物活性についても検討する。 また、天然由来の新規生物活性物質として、渦鞭毛藻の一種から破骨細胞分化抑制活性を示すシンビオイミンを、沖縄産カイメンの一種から強力なマウスリンパ性白血病細胞(P388)に対する細胞毒性を示すナキテルピオシンをそれぞれ単離し、構造を決定した。これらの生物活性物質についても、今回確立した脂肪蓄積阻害活性など種々の生物活性を検討する。
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