研究概要 |
人類は、現代生活を営む上で多量の天然資源を消費し、また、多量の廃棄物を生み出している。石油や石炭、自動車の排気ガスやタバコの排煙に含まれる多環式芳香族化合物は、がんの原因物質とされている。その発がん機構では、体内においてカルボカチオン中間体を経由して、DNAと結合することが知られている。そのため、がん治療の効率的な対策を立てるために、中間体であるカルボカチオンの性質を調べる必要がある。そこで、多環式芳香族化合物から生じる短寿命カルボカチオンの電子構造や安定性について物理有機化学的手法を用いて調べた。 本年度は、環を4つもつピレン、アズピレン、ジシクロヘプタ[ed,gh]ペンタレン系化合物とベンゾフェナンスレン誘導体、3個から4個もつフルオレン系やスピロフルオレン系、シクロペンタフェナンスレン系化合物から生じるカルボカチオンに関して、電子構造や芳香属性と発がん性との相関関係を核磁気共鳴測定装置および理論化学計算法を用いて調べた。多環式芳香族炭化水素にベンゼン環が縮環するにつれて、陽電荷の非局在化は大きくなるが、新たな環への非局在化はあまり多くなかった。また、5員環構造をもつ場合、陽電荷は5員環部位に多く分布し反芳香属性を持つ傾向があることがわかった。この結果は、がんの発生を抑制する薬の開発だけではなく、多環式芳香族化合物を用いた電導性材料の開発等、カルボカチオン中間体が関与する機能性材料の開発への応用が期待される。
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