本研究は、イモリの精子形成過程でプロラクチン(PRL)が6回の体細胞分裂を終えた第7世代精原細胞にアポトーシスを誘導する分子機構の解明を目的として、PRLのシグナル伝達系とPRLによる遺伝子発現の変化に着目した。(1)PRLシグナルは受容体とそれより下流の細胞内シグナル伝達因子のチロシン残基のリン酸化を介して伝達される。PRLを注射したイモリの精巣でチロシン残基がリン酸化されるタンパク質を検出すると、細胞質画分に分子量が約90kDaのタンパク質(p90)を見出し、PRL受容体より下流のシグナル伝達因子としてPRLによるアポトーシスの誘導への関与が考えられた。p90を精製してアミノ酸配列を決定し、そのcDNAを単離している。また、PRL受容体の抗体を作製し、P90とPRL受容体との結合を免疫沈降法により解析している。(2)PRLを注射したイモリの精巣で活性が上昇するプロテアーゼをcaspaseの阻害剤との結合を用いて探索し、分子量15kDaのタンパク質(p15)を見出した。このタンパク質を精製してプロテアーゼ活性を調べ、またアミノ酸配列を決定すると、caspase-3とは異なる一次構造、性質を持つ新規のプロテアーゼでアポトーシスの最終実行因子として機能しうることを示唆した。現在はcDNAを単離してPRLによるアポトーシスでの働きを解析し、論文発表を近く予定している。(3)PRLの作用によりmRNAの発現が変化するクローンの一つとして、RNA結合タンパク質(nRBP)をイモリの精巣から調製した5521個のcDNAの中からマイクロアレイ法により見出した。この全長cDNAを単離して抗体を作製し、mRNA、及びタンパク質の発現がPRLの作用で変化すること、nRBPがRNAとの結合活性を有することやアポトーシスの誘導に関与することなどを明らかにしつつあり、現在論文作成中である。
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