aPKCλ依存的な細胞極性と増殖をつなぐメカニズムの解析 aPKCλ遺伝子欠損マウスの解析から、既にembryoで上皮細胞の極性形成と増殖制御にaPKCλが関与することが判明していた。今回新たに乳腺上皮で特異的にaPKCλ遺伝子を欠損すると、乳腺上皮細胞の極性が消失し、かつ細胞増殖が亢進して、前がん段階のhyperplasiaが形成された。このことから、aPKCλは乳腺の器官形成に必須であり、かつembryo同様に上皮細胞の極性形成と増殖制御をメカニズムに深く関与することが分かった。更に、我々はこの乳腺系の解析から、aPKCλ欠損乳腺上皮細胞である特定のキナーゼが活性化していることを明らかにした。このキナーゼの阻害剤を乳腺特異的aPKCλ欠損マウスに投与すると、細胞増殖が抑制されかつ細胞極性が回復することから、aPKCλはこのキナーゼを介して乳腺上皮細胞の極性と増殖を制御していることがわかった。現在、このメカニズムの詳細を解析している。 発がんとの関わりについて 上述したように、乳腺特異的aPKCλ欠損マウスでは前がん段階であるhyperplasiaが引き起こされた。更にこのマウスを1年以上飼育すると一部の個体でadenocarcinomaまで進行した。このことから、aPKCλ依存的な極性・増殖制御の異常は乳がん形成の初期に関与し、そこに何らかの2セカンドヒットが生じることでadenocarcinomaにまで進行することが示唆された。よって、aPKCλは細胞極性と増殖を制御することで、正常な上皮器官の形成・維持に必須であり、その異常ががん化を引き起こすと考えられた。今後は上述したように、aPKCλ依存的な細胞極性と増殖をつなぐメカニズムの詳細を明らかにしていきたい。
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