乳腺上皮組織特異的aPKCλ欠損マウスでは、非妊娠時において乳腺上皮細胞の極性消失と増殖亢進が引き起こされ、前がん段階のhyperplasiaが生じた。このとき増殖・アポトーシスに深く関わる特定のキナーゼが活性化していた。このキナーゼの阻害剤をaPKCλ欠損マウスに投与するとhyperplasiaが抑制された。このとき細胞増殖の抑制と細胞極性の回復がみられることから、aPKCλはこのキナーゼを介して上皮細胞の極性と増殖を制御していると考えられた(論文準備中)。更に、aPKCλ欠損マウスの妊娠ステージにおける解析を進めたところ、離乳10日ほどでアポトーシスによって消失する腺房構造が離乳後1ヶ月でも残存していた。このとき上記特定のキナーゼがやはりaPKCλ欠損腺房上皮でも活性化していた。以上から、aPKCλは特定のキナーゼを介して細胞極性・細胞増殖・アポトーシスの制御に関わっており、このことが乳腺上皮組織の形成に重要な役割を果たしていること及びその制御の破綻が発がんの初期に重要な役割を果たすことが示唆された(論文準備中)。 乳腺以外の器官形成に関しては、aPKCλが1)大脳形成過程における神経上皮細胞のAJ機能に必須であり、このことが大脳形成に重要な役割を果たすこと(論文投稿中)、2)網膜形成過程における未分化細胞のAJ機能に必須であり、このことが網膜の層形成に重要な役割を果たすこと(大阪バイオサイエンス研との共同研究:論文投稿中)、などをそれぞれの組織特異的なaPKCλ欠損マウスの解析から明らかにした。 更に糖尿病研究との関連で、神戸大学との共同研究で、1)肝臓aPKCλは脂質合成制御とInsulin感受性に関与すること、2)膵臓aPKCλがグルコース依存的なインスリン分泌に関与することを、それぞれの組織特異的aPKCλ欠損マウスの解析から明かとした。
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