アザスピロ酸はアイルランド産養殖ムラサキイガイから単離された新規食中毒原因貝毒であり、その絶対立体配置、およびC_1-C_<25>位部分とC_<28>-C_<40>位部分との相対立体配置は明かとなっていない。また、アザスピロ酸はその分子内にアザスピロ環、ジオキサビシクロノナン環、トリスピロ環など特長的な構造を有していることから、合成化学的にも非常に興味深い化合物である。以上のようなことから報告者はアザスピロ酸の絶対立体配置および相対立体配置の決定、およびその生物活性発現の機構解明を目的として、合成研究を開始した。 当初、報告者は通常のアセタール化反応によってABCD環部分の合成を行うことを試みた。すなわち環化前駆体に対しメタントリフラートを活性化剤として用いるアセタール化反応に付したところ、トリスピロ環梼造を持つ化合物を得た。しかしながら、この化合物は望みとする化合物のC_<13>位におけるジアステレオマーである非天然型の環化様式を持つものであった。そこで、B環およびC環部分を硫黄原子で架橋することによってC_<13>位のスピロアセタールの立体化学を制御し、天然型の化合物を得る新たな合成計画を立案し、以下のように研究を進めることとした。 まずC_<13>位のスピロアセタールの制御についてモデル化合物を用いて検討を行った。その結果、イットリビウムトリフラートを用いるアセタール化反応によって目的とするアセタール構造を持つ化合物を得る事ができた。また、ラネーニッケルによる脱硫を経てモデル化合物であるアザスピロ酸BCD環部分の合成に成功した。 モデル実験で得られた知見をもとにアザスピロ酸ABCD環部分の合成を行った。硫黄原子を導入した環化前駆体を合成し、モデル実験と同様にルイス酸を用いたアセタール化反応、ラネーニッケルによる脱硫を行ったところ、望みとする天然型アザスピロ酸ABCD環部分の合成を達成した。
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