研究概要 |
本年度は,倉地らによって実験的に示唆されるに至ったASE結合タンパク質(ETSタンパク質ファミリの主メンバのひとつ)とターゲットDNAとの複合体を,分子モデリング技術と分子動力学(MD)シミュレーションを駆使して,3ステップモデリング法に沿って解析した。 すなわち,既に知られている複合体の結晶構造を元に,構造モデリングによって1塩基対の変異を与え,さらにエネルギ最適化計算を注意深く慎重に行うことによって,結晶構造(構造モデリングによる変異を与えない)と併せて,MD計算の初期構造を与えた。これら6つの複合体とふたつのDNA分子単体に対して,高速の並列コンピュータを駆使した,高効率かつ高精度の分子動力学(MD)計算を組織的に実行した。 現在までに,合計25nsほどの計算が既に終了した。その結果,結晶構造(変異なし)から開始したシミュレーションにおいては,ASE結合タンパク質によるDNA認識の動的な機構が明らかになってきた。すなわち,わずかなコンフォメーション変化がドミノ倒しのように分子間に伝達されることによって,塩基の違いによるアフィニティの差が生じる機構が明らかになった(投稿準備中)。 本年度は,ASE結合タンパク質とDNAとの結合について,さらに速度論的な解析も併せて開始した(産総研・山崎らのグループとの共同研究による)。これはBiacoreによる高精度な生化学的解析によって,従来よりも精度の高い結果を得ることを意図したものである。MDシミュレーションによる原子解像度レベルにおける動的構造の解析と併せて,これらの分子認識機構の詳細が明らかになるものと期待される。
|