研究概要 |
3ステップモデリング(3SM)法に基づきASEおよびAIEの認識機構を解析し,本年度は特に以下の諸点において飛躍的な進展を得た。 (1)ASEをターゲットとする転写因子Ets1(倉知らによる)において,従来DNA認識への寄与が知られていなかったアミノ酸残基Gln336が,DNAと水素結合を形成し認識に重要な寄与を果たすことを見出した。さらにその水素結合の形成・切断における自由エネルギ変化量を理論的に求め,遷移状態理論と併せてDNAアフィニティ能を定量的に評価した結果,塩基配列に依存して水素結合解離の活性化エネルギのみが著しく低下し(非対称な反応過程)DNAアフィニティに差が生じ得る新規の動的DNA認識機構を見出した。そこで反応速度論的解析によりこの理論を検証したところ,結合定数比の実験値および予測値がよく一致した。このようにEts1の塩基識別の詳細な機構が,分子動力学と反応速度論の結果とを統合することによりはじめて明らかになった。 (2)AIEの認識タンパク質(候補)であるhnRNPファミリ(倉知ら)に対しては,RNAとの複合体構造,さらには阻害剤(医薬品候補)との複合体構造を,3SM法によって理論的に構築することに成功した。同時に,こうした複合体構造の予測計算結果を評価するために,FBP1(同ファミリ)と阻害剤との複合体構造(既知)などを利用して,3SM法による計算精度を調べた。その結果,従来の手法では約2割の的中率であるのに対して,本手法によれば8割以上の確度で複合体構造を予測できることが明らかになった。しかもこの手法では,溶媒水分子の寄与なども露わに計算に含めることができ,従来法より著しく正確な複合体構造を得ることができた。したがって今後,上述の複合体構造モデルと本予測技術を基礎に,阻害剤の特異性向上などの分子設計をさらに進めて副作用の低減などを実現し,実際的な応用領域へと研究を展開する予定にある。
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