霞ヶ浦を主なフィールドとした平成16年度までの研究により、湖岸や湖底の土砂中には、現在地上植生から消失した種も含めて多様な水生植物の土壌シードバンク(埋土種子集団)が残存していることが明らかにされた。また、湖岸植生帯を構成する植物種の多くが自然の水位変動に適応した発芽戦略をもつが現在の人為的な水位管理条件下では種子からの更新の機会が大幅に抑制されていることが示された。平成17年度は、これまでに明らかにされた湖岸の植物の発芽特性、特に発芽季節と発芽や実生定着に対する冠水の影響に関する知見を活用し、湖沼の水位管理のパターンに対する湖岸の植物の発芽・定着適地(発芽セーフサイト)の動態を予測するモデルを構築し、予測・検討を行った。この研究では、先行研究の結果を踏まえ、湖岸の植物の発芽セーフサイトの定着条件を定義し、この条件をみたす場所の面積を、霞ヶ浦をモデル湖沼として湖岸の微地形(国土交通省による横断測量調査結果を活用)のデータと湖の水位データ(国土交通省による日平均水位記録を活用)から算出した。その結果、霞ヶ浦の場合では、現在の「管理目標水位」(水門による水位管理の目標とする水位で、長期を対象にした場合の平均値と一致)を現在よりも10cm上昇させると湖岸の植物のセーフサイトは50%程度まで減少すること、15cm低下させると2倍程度に増加することなどが予測された。水生・湿地生植物の発芽に対する水文環境の重要性は多くの研究からも示されているが、具体的な湖沼管理のプランが湖岸の植物に及ぼす影響を定量的に予測した研究はほとんど存在しない。植物の発芽・定着特性、湖岸地形、水位から植物のセーフサイトを予測する本モデルは、霞ヶ浦以外の湖沼でも適用が可能であると考えられる。
|