鳥類では、始原生殖細胞(胚発生の一時期に出現する精子や卵子の祖細胞)の胚間移植技術に代表される発生工学技術は、緊急を要する希少鳥類種の問題に対処するには現実的であるにも関わらず、実際の希少種に適用するには、乗り越えなければならない問題が多いのも現状である。まず、発生段階表の明らかでない鳥類から、いつ、どのように始原生殖細胞を採取すればよいかということが最初の問題となる。希少種が対象である以上、始原生殖細胞を採取した胚を犠牲にすることもできない。始原生殖細胞を移植した胚を高率に孵化させることも必須である。本研究の目的は、希少鳥類胚から始原生殖細胞の採取に最適な胚を効率良く得るための胚培養法を開発することである。その結果、卵殻外での胚培養が困難とされていた、放卵直後からの胚形成期において、人工容器と人工膜を組合せて用いた卵殻なし胚培養法の開発に成功した。孵卵72時間後、人工容器を用いて胚培養したニワトリ胚の発生を調べた結果、濃厚卵白の有る場合の正常発生率は73%と高い値が得られた。人工容器を用いた胚培養法では、胚形成期の発生にとって胚と人工膜との物理的接触が重要であることを示唆した。また、胚形成期の発生は低ガス交換の状態でも進行することが明らかとなった。破卵や軟卵などの卵殻形成に異常があり、これまでやむを得ず破棄するしかなかった受精卵の救出が期待される。今後は、孵化までを完全に卵殻なしで胚培養を行なう方法を開発することが課題となる。
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