鳥類における発生工学技術を用いれば、始原生殖細胞(胚発生の一時期に出現する精子や卵子の祖細胞)を移植した生殖巣キメラから子孫個体を創出することが可能である。この技術は、絶滅危惧種問題を解決するための新手法となる可能性が高いにも関わらず、実際の希少種に適用するには、乗り越えなければならない問題が多いのも現状である。そのなかでも、生殖巣キメラを効率良く作出するために、始原生殖細胞の機能を保持したまま、生存・増殖する培養系の開発が強く求められている。本研究の結果、初期胚由来の線維芽細胞との共培養系において、少数の(最低1個からの)始原生殖細胞が増殖し、コロニーを形成するものが観察された。この結果は、体細胞から放出される因子によって、始原生殖細胞の生存と増殖が促進されることを示している。しかしながら、鳥類の始原生殖細胞に発現しているサイトカインレセプター等については不明であるため、培養下で増殖性を向上させることは極めて困難であった。そこで、鳥類の始原生殖細胞に特異的に発現する遺伝子の同定を行うために、単離した始原生殖細胞からcDNAライブラリーを作製した。約35000個のニワトリ始原生殖細胞からRNAの抽出を行い、約20ngのtotal RNAを回収した。SMART法を用いることで、このような微量なRNAからも、完全長cDNAライブラリーを作製することができた。本研究で作製したcDNAライブラリーにおいて、vasaやc-kitに代表される生殖細胞特異的な遺伝子の発現を確認した。
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