本研究は、戦後冷戦期、とくに英国の文化交流機関であるブリティッシュ・カウンシルが旧ソ連・東欧諸国に向けて展開した文化外交において、英国が自国をどのように表象することで効果的な外交戦略を達しえたのかを、歴史実証的かつ理論的に解明するものである。 本年度は、墓の英国出張の際に、公文書館においてソ連関係の非開示文書(50年間)を集中的に閲覧したほか、1960年代にカウンシルの要職に就いていた人物ふたりと接触をとり、それぞれインタビューを行うことに成功した。さらに、これまでのリサーチ結果をもとに、9月、英国ロンドン大学において成果発表を行った。本研究に代表されるような「文化の政治性」を問う研究は、英国本土においても比較的新しいためか、大きな注目を集めたようである。それは、「非政治性」を標榜するブリティッシュ・カウンシルが、旧共産国において、実は強い政治外交的意図を内に秘めながら活動を行っていたという事実であった。 帰国後は、データの集積・整理を行うかたわら、日本国際政治学会の学会誌『国際、政治』の特集「冷戦史の再検討」に投稿し、そこにおいて夏の英国における報告をもとに、さらに詳細な文化外交の内幕を論じた。そこでは、英国が1950年代後半、他の西欧諸国によるソ連への文化外交とは異なった独自の戦略を展開したにもかかわらず、「英国的理念」に固執しすぎたために現実的な状況判断を誤り、その結果、ソ連が要求する文化協定を受け入れざるを得なくなった経緯を分析した。
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