研究概要 |
初年度の平成15年度においては,文献資料の収集,および現地カウンターパートの協力を仰いでの予備的な調査を実施した。他の研究者による調査報告その他文献の吸収,および初歩的なフィールドワークを通じ、江西村落の政治・経済・社会生活に見られる「固有の文脈」がいささかなりとも明らかとなった。当該村落の政治生活を決定づけていると思われる社会経済的構造として,自然村の構成や同族組織などの社会的な要素、土地経営、農作物、郷鎮企業、農家副業などの経済的な要素の相互連関についてはある程度の輪郭が浮かび上がってきた。 とりわけ上記の作業を進める中で,いわゆる「集団資産」の重要性が見出されたのは大きな収穫であった。本研究が比較の対象としている沿海部の農村(北京,山東)では,土地,企業,インフラなど集団資産の形成が促され,それらの管理,運用をめぐって村落が「経営体」として実体化している。ところが,本プロジェクトの直接的なフィールドである内陸の江西農村においては,地域社会は集団資産に乏しく,そのため公共的事業の推進は宗族の力や出稼ぎ者の資金などに依存することになり,そのうえに展開する村落リーダーシップ、およびインフラ建設、福利などの自治的活動の中身とその展開パターンも沿海村落とは異なってくるのである。 こうした発見は,本年度中に公刊された著書『中国農村の権力構造』や,翌年度慣行予定のその他の論文の議論にも十分に活かされている。
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