夏期に行ったイランでの資料調査の結果、シーア派法学関係の刊本を網羅的に収集することができた。また、シーア派法学書のテーマ別集成であるYanabi `al-fiqhiyya(法学の泉)全40巻を購入した。法学実用書の収集も順調に進み、イランの主要図書館で複写を取ることができた。とりわけ19世紀のシーア派最高権威であるNajafiとAnsariの2人の法学実用書は、当時の支配的な法学者の意見を知るために重要である。またホメイニーやハメネイーなど現代の法学者の問答形式の法学実用書も入手した。収集した資料の目録の作成にも着手し、インターネット上で一部公開している。(http://www.aa.tufs.ac.jp/~n-kondo/) 正統的な法学書と法学実用書との比較については、主にワクフ(宗教寄進)の部分について検討を試みた。13世紀の法学書Shara'i`al-Islamとその19世紀のペルシア語訳の比較では、後者が単なる翻訳ではなく、6世紀間の法学上の学説の変化を反映したものであることが判明した。また、19世紀のMirza-ye Qommiの著作Jami`al-Shatatは、問答形式を取る法学実用書であるが、通常の法学書では触れられないイスラーム法の細則を説明する、非常に興味深い書であることが明らかとなった。とくに19世紀に作られたさまざまな法廷文書の内容を理解する上で重要である。 研究業績としては、英語の論文集を編集し、自らも寄稿、和文の論文も2点発表し、1点を執筆した。いずれも本研究と関連するものであるが、とりわけ2004年刊行予定の和文論文は、法学者が発行するファトワー(法勧告)の機能を論じたものであり、近世のイランに関しては類例のないものである。
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