本年度は、夏期にイランにおいて資料調査を行い、イスラーム法法廷台帳の複写の収集につとめた。テヘラン大学図書館で2点、マルアシー図書館で1点の収集に成功した。これまで全く研究されていないこれらの文書は、20世紀初頭、すなわち近代法の本格的な導入以前の、イスラーム法法廷の役割とウラマーの日常的業務を明らかにするうえで、決定的な資料となる。今後時間をかけて、データ・ベースを作成しつつ、分析する予定である。 昨年度から継続中の法学問答集の収集も、本年は大英図書館の2点をマイクロフィルムで入手した。特に18世紀初頭の法学者マジュレスィーのそれは、ペルシア語による最初期の法学問答集の一つであり、19世紀のそれと比較する上で非常に重要である。 法学問答集の分析については、実際に歴史文書の形で残るウラマーによって発せられた法学勧告(ファトワー、ホクム)の比較を行い、その成果は「ウラマーとファトワー」という論攷のかたちで発表した。結論は、いくつかのシーア派の法学問答集は、実際に信徒がウラマーに質問し、ウラマーがそれを回答したものを集成したものと考えられ、社会史の史料として十分使用にたえるというものである。イラン-12イマーム・シーア派の法学勧告に関する専論はイランにおいても欧米においてもなく、画期的なものである。 さらに、法学問答集と法廷文書を利用して、19世紀のイランで盛んに行われた約定選択権付売買に関する研究を進めている。これは実質的な高利貸しにあたり、イスラーム法で禁止されていた利子付金銭貸借が、社会的要請によって現実に認められかを示すものとなる。
|