本研究の3年目(最終年度)となる平成17年度は、最終的な関連図書の購入を計画的におこなうとともに、謝金を使用して関連資史料の最終的なデータベース化をすみやかに推し進めた。そして、これまでに収集し、整理し、データベース化してきた関連資史料を、総合的な観点から分析し、「預言者信仰」の諸事例に関する成果発表をおこなった。具体的には、国内の他大学および研究機関において口頭発表をおこない、他の研究者との意見交換から得られた知見を取り入れながら、本研究の最終的な成果公表のための論文を作成した。論文としては、まず、預言者の「子孫」すなわちサイヤドに関して、「北インド・ムスリム社会におけるサイヤドの人類学的研究」というタイトルの論文(東京外国語大学大学院・博士号学位取得論文)を執筆した。つぎに、預言者の「言行」(=民間信仰的なものも含む)については「生と死:アザーンからナマーゼ・ジャナーザまで」(小杉泰・江川ひかり編『ワードマップイスラーム』新曜社、近刊)などで、さらに預言者の「遺品」(=イスラームの「聖遺物」)については「預言者ムハンマドの「遺品」信仰:南アジアの事例を中心に」(赤堀雅幸編『民衆のイスラーム:スーフィー・聖者・精霊の世界』山川出版社、近刊)といったかたちで、論考を発表した。このようにして、本研究が解明しようとする宗教=政治現象としての「預言者信仰」は、諸事例の詳細な記述と、綿密な検討を通じて、理論的枠組の構築が試みられた。
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