本年度は前年度から継続調査中のロシア系住民の信仰の問題、およびロシア人サブグループ間の相互関係について、5本の論文・記事を執筆した。報告者は、ソ連崩壊後、ロシア人サブグループ間の相違が強化され、社会集団の再編に影響を与えているかどうかに関心を持っていた。調査の結果、ロシア人サブグループの自他認識は、「信仰」「血統」「居住地」「民族籍」に基づいていることがわかった。近年若年層の間でも信仰への関心が高まりつつある。だが旧教徒(古儀式派)の場合、信仰拠点が極めて少ないため、ロシア正教への接近が観察された。また旧教徒と正教徒間の結婚が一般化したために、両者の区分を意識しない人々が増加している。これにより、自らのアイデンティティとしては「ロシア人」という民族籍が最大の意味を持つようになっている。 それではロシア人と非ロシア人はいかなる関係を構築しているのか。この問題意識に基づき、本年度は2回のフィールドワークを行った。2003年7月23日〜8月23日には、ロシア連邦ウラン・ウデ市、ノヴォシビルスク市、モスクワでの資料収集を行うとともに、ロシア連邦ブリヤート共和国ビチュラ地方とムホルシビリ地方において、ロシア人コサック(カザーク)およびチュルク系のタタール人の調査を行った。また2004年2月20日〜3月17日には、同ウラン・ウデ市で資料収集を続行するとともに、ムホルシビリ地方においてモンゴル系のブリヤート住民とロシア人住民の関係を調査した。これらの調査結果は次年度に分析・発表する予定である。
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