本研究課題の目的は、バングラデシュ農村における災害からの「回復能力」の男女差とその変容を、マクロな社会経済的な変動と女性政策の進展という視点から究明することである。 本年度は当初の計画に沿い、以下のとおり研究を実施した。 1)前年度研究成果のとりまとめ。 前年度バングラデシュで行った農村調査の結果を、(1)1990年代中頃以前と以降における災害被害の男女差、(2)災害からの回復能力の構成要素の中で、ジェンダー格差を形成する要素、(3)コミュニティ防災への女性の参加という3点からとりまとめた。 2)研究成果の学会報告と意見交換。 1)の結果を、国立民族学博物館主催「災害に関する人類学的研究」研究会(7月30日)、国立女性教育会館女性の学習国際フォーラム「災害と女性のエンパワーメント」(12月10-11日)などで口頭発表し、意見交換を行った。 3)バングラデシュにおける補足的調査の実施(2月-3月)。 前年度実施の農村調査において研究課題の遂行に当面必要な農村レベルの資料が収集できたと判断し、防災施策および女性政策に関する政策実施面での問題点に関する補足的資料を収集し、考察した。 今年度の主な成果は、(1)1990年代から経済発展が進む中で、災害回復力の構成要素となるリソースベースの分配という意味では、ジェンダー格差が拡大したことを実証的に示す材料が得られ、(2)かかる格差の拡大を是正するために国際社会で「防災におけるジェンダー課題」として認識されている課題と農村レベルの防災におけるジェンダー課題の間に隔たりが生じる仕組みが解明されたことである。今後、この成果を活用し、防災・環境保全政策に有効にジェンダーの視点を盛り込む手法を提示する研究へと発展させる予定である。
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