本研究は、懐徳堂学派を代表する中井履軒の天文学の特色とその根底にある履軒の宇宙観を明らかにすることを目的としている。 今年度は、まず、中井家伝来の資料を保管する懐徳堂文庫の貴重資料の解題を執筆した。これは湯浅邦弘編「懐徳堂データベース全コンテンツ」(『大阪大学大学院文学研究科紀要』第42巻、2002年3月)および湯浅邦弘編『懐徳堂文庫の研究(共同研究報告書)』(2003年2月)に収められた貴重資料解題の続編に当たる。分担執筆された解題は「懐徳堂文庫貴重資料300点解題」として、現在、公開中の『懐徳堂文庫電子図書目録』(http://kaitokudo.jp/)とリンクさせ、Web上に公開される予定である。 次に、履軒の宇宙観を支える経学的根拠を探るため、その膨大な経学研究の中でも、最もすぐれた注釈書の一つとされる『論語逢原』の訳注を行なった。それが「訳注『論語逢原』(1)」(『京都産業大学論集人文科学系列』第31号、2004年3月刊行予定)である。今回は、『論語逢原』の序文の訳注を行なった。 さらに、履軒の天文学に影響を与えた清の游芸の『天経或問』について、同書が日本においてどのような形で受け入れられていたかを検討するべく、その現存する版本ならびに注釈書の実見調査を行なった。その調査報告が「日本における『天経或問』の受容(1)-その書誌学的考察-」(『京都産業大学日本文化研究所紀要』第9号、2004年3月刊行予定)である。今年度は、本学附属図書館をはじめ、大阪大学、京都大学、京都大学人文科学研究所、国立公文書館を訪問した。 最後に、天文学に関する履軒の研究成果および履軒の天文学に影響を与えた西洋天文学ならびに中国天文学について概説したのが「中井軒の天文学とその背景」(『懐徳堂知識人の学問と生-生きることと知ることと-』所収、大阪大学出版会、2004年3月刊行予定)である。
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