研究概要 |
本研究テーマに関して,本年度は瑜伽行派の基本典籍である『瑜伽師地論』のうち,最古層に属すると考えられている『菩薩地』と,その思想を発展的に解釈した「摂決択分中菩薩地」との思想的関係について,新たな校訂テキストを作成し,考察した結果,以下の結論を得た. 1.『菩薩地』に関して,従来利用されていなかった新たな写本を使用し,第四章「真実義品」の改訂テキストを作成した.その際,写本系統の一部が明らかになった. 2.『菩薩地』「真実義品」で説かれる,言語表現の基体でありながら,勝義として言語表現し得ない実在(vastu)に関して,その学説が「摂決択分」で五事説により,分析されていること,また三性説が五事説を前提に成立していることを指摘した.その結果,『菩薩地』の実在(vastu)に関する学説→五事説→三性説という思想史的発展を結論付けた. 3.『菩薩地』「真実義品」で実在(vastu)に関して説かれる二つの学説,「実在(vastu)が言語表現し得ないことに関する論証」と「分別から生じるvastu」が,「摂決択分」において継承され,発展していく過程を考察した. その結果,この二つの学説に関しては,『菩薩地』「真実義品」,の学説は,「摂決択分」で五事説と関連して説かれる箇所では忠実に継承されているのに対して,三性説と関連して説かれる箇所では基本的な点で変化していることが明らかになった.
|