本年度は以下の2点の重点目標を挙げ、それぞれ達成された。 1 他界を主題の一部として含む絵画(主に説話絵画)における他界巡歴の様態を分析するための重要作品の調査。他界巡歴が説話構造に組み込まれ、かつ絵画上に他界構造が明確に示されているものや、中国における水陸画といった、儀礼の中に他界構造の反映された絵画などが本年度の主たる調査対象となる。 2 先年度に引き続いての関連文献の収集。日本へ伝来する際に画題が誤解されることが多かった水陸画をはじめ、他界巡歴をめぐる絵画は誤解の中に存在を埋もれさせているものが多い。したがって本年度では、未紹介の地方の作例を発掘する意味で国内外の地方の文化財関連の図録類も収集してゆく必要がある。本年度までに収集されたこれら資料も、分析を進める一方で、作品さらに図像ごとに研究補助員によってデータベース化する。 このうち1については、七宝町普賢堂本十王図・米原市仏道寺本九相詩絵巻・伊賀市西蓮寺本十王図など、新出資料が多く発見されたことは特筆すべき成果である。特に普賢堂本は、近世の作例ながら儀礼空間との関係性を重視し、それと他界構造とを有機的に結びつけた例として貴重である。 また2については、1に関連した旅費の予想外の膨張などの予算の都合上、研究補助員のすべてを学生のボランティアでまかなわなければならなかった。そのため年度末ぎりぎりでの入力作業が年度末に集中せざるを得なかったこと・いささか拙速な作業にならざるを得なかったことが惜しまれる。
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