本年度は、視覚装置を媒介とした写真の流通の問題、写真論における視覚装置論の意義の考察、初期映画と幻灯の比較の3つを課題とし、研究を進めた。 写真の流通の問題に関しては、ヴァナキュラー写真という各地域に根ざした日常的な儀礼に組み込まれた写真の用法について文献及び資料を蓄積し、その諸相の複合性を明らかにした(その成果については美学会西部会第252回例会「芸術を巡る「欲望」と「所有」」のパネリストとして参加した報告において議論を行った。)画像の透明性を基盤にしてしばしば議論される写真がいかに不透明で手に触れられ、流通にたいして摩擦あるものであったかという主旨の議論である。 写真論に対して視覚装置論のもつ意義については、イギリスのウィリアム・ヘンリー・フォックス・トルボットの調査および資料収集によって研究を進めた。トルボットは写真発明者の一人であり、数多くの写真史において複製可能な写真プロセスの実現を果たした人物とみなされている。しかし、その写真集『自然の鉛筆』がいかに視覚論やテクストと画像との複雑な関係にかかわる実験であったのかが詳細な調査によって明らかになった.その成果は3月刊行予定の『美学芸術学論集』(神戸大学芸術学研究室)において発表する予定である。 初期映画と幻灯の問題に関して、19世紀における写真の教育的使用の問題を上記のトルボットの属した文化的文脈においてさまざまな批評雑誌での言説を蓄積し、検討を行った。
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