本研究は、京都洛西地域社会の形成過程と地場産業である映画文化との関係性について、フィルム・コミッション的機能の形成と展開を明らかにすることを目的としている。アプローチの手法として、戦前のマキノ映画、戦中・戦後の大映京都撮影所に調査対象を絞り、撮影所の機能やロケーション該当地、映画作品内での地域の描かれ方、作品受容結果、といった資料・情報を収集し、諸視点から、地域との関係性を総合的に検証する調査を試みている。 本年度は、基本情報となるマキノ映画全作品1000本程と大映京都撮影所作品900本ほどの洗い出しを経て、それらの中から京都や山陰線沿線の自治体を舞台とする作品の抽出と、映画人への作品制作情報の聞き取り調査をおこなった。また、映画が地場産業として京都に定着していく大正時代に着目し、京都日出新聞から大正期に報道された映画記事について網羅的な調査をおこなった。 これらの調査結果は、前者の基礎データについてはweb上(http://www.arc.ritsumei.ac.jp/cinema/)に作品リストを掲載しており、現在、このリストをベースに、ロケ情報や聞き取り調査の詳細報告を順次公表するべく、HPを作成中である。後者の大正期調査については、地元・京都の映像を謳った興行用映画の先駆者として、京都に撮影所を有していた映画会社による映画作品ではなく、新派劇と映画を併用した"連鎖劇"というジャンルをあらたに見直すことができた。この連鎖劇で試みられた様々な手法が、その後のマキノ映画をはじめとする商業用劇場映画の製作方針に大きな影響を与えたといえるのである。この点については、調査報告として、『アート・リサーチ 4号』(2004年)に発表した。
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