まず、中世の武家故実関係史料や古典文献に見られる「辻が花染」の語義を解釈、「辻が花染」の語義とその解釈が室町時代中期以降、どのように変化していったのかをたどることによって、文献上からみた歴史上の各時期における「辻が花染」を定義付けられるよう努力した。「辻が花染」の語義上における各時代の定義に従い、中世染め模様の歴史的変遷を見るにあたって必要と考えられる調査資料を選定。本年は京都国立博物館に所蔵あるいは寄託される「辻が花染」裂、また、千葉・国立歴史民俗博物館、東京・根津美術館、埼玉・遠山記念館に所蔵される「辻が花染」裂の調査を行った。調査にあたっては、素材・色・技法・模様構成を調書に記録し、デジタル1眼レフでマイクロ画像を撮影した。 各所蔵地での調査と同時に、所在が確認されない資料や、未調査資料の情報収集も行った。その結果、これまで刊行されてきた資料の中に、現在はその所有者の元を離れ、海外や古美術商に移された作品を確認した。 2004年1月には、ニューヨーク・メトロポリタン美術館で2003年10月14日〜2004年1月4日家で開催された「織部と桃山文化展」を調査した。本展は織部焼のデザインとの関係で辻が花染も多数展示されることから、織部焼と「辻が花染」との関係をどう解釈しているかについて調査した点に大きな意義があった。また、メトロポリタン美術館研究員、ジョイス・デニー氏のご厚意により、本展に出品された「辻が花染」裂の詳細な調査を行うことができた。さらに、ボストン美術館に所蔵される「辻が花染」、同時代の小袖の重要な作例として知られる、シカゴ美術館の縫箔を調査した。同時に、在外「辻が花染」裂の情報収集を行った。 調査によって得られた「辻が花染」裂のデータは、ある程度まとまった段階でコンピュータ入力してデジタル・データ化し、それぞれの作品の比較を可能にした。その結果、国内外において元は1つであったと考えられる同素材・技法・模様の共裂を数件新たに確認することができた。
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