本年は前年度に引き続き、京都国立博物館に所蔵あるいは寄託される「辻が花染」裂、千葉・国立歴史民俗博物館の「辻が花染」裂の調査を行った。また、奈良・奈良県立美術館、奈良・大和文華館、大阪・鐘紡株式会社(東京・女子美術大学寄託)、山口・山口県立博物館に所蔵される「辻が花染」裂の調査を行った。調査にあたっては、素材・色・技法・模様構成を調書に記録し、デジタル1眼レフでマイクロ画像を撮影した。京都市産業技術研究所繊維技術センター、国立歴史民俗博物館で関連資料を調査し、日本中世の染織技術について調査を行った。大和文華館には、「辻が花染」裂の小袖を着用した肖像画も調査させていただいた。こういった絵画資料との比較調査も本研究において意義があると再認識した。 2005年1月には、在ヨーロッパの辻が花染およびその関連資料を調査する目的で、イギリス・ロンドン、フランス・パリ、ドイツ・シュトゥットガルトの美術館・博物館を中心に調査した。ロンドンでは大英博物館およびヴィクトリア・アンド・アルバート美術館、パリではギメ東洋美術館、シュトゥットガルトではリンデン州立民族博物館で調査を行った。特に、リンデン州立博物館に所蔵される「辻が花染」裂は、日本でもなかなか見られない大きな作例で成果があった。また、ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館には、現代作家による復興的な「辻が花染」の着物が所蔵され、その製作に際する手記も添えられており、現代における伝統技術復興の理念について調査することができた。在ヨーロッパの「辻が花染」裂、およびその関連資料に関しては、まだまだ未確認の部分も多いため、各研究担当者に今後の調査についても協力と情報提供を依頼した。 調査によって得られた「辻が花染」裂のデータは、ある程度まとまった段階でコンピュータ入力してデジタル・データ化し、それぞれの作品の比較を可能にした。その結果、元は1つであったと考えられる同素材・技法・模様の共裂を数件新たに確認することができた。
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